日本インターネットガバナンスフォーラム2022 セッションサマリー

概要

  • 全体テーマ「今、改めて問われるインターネットの自由」
  • 日時
    • [Day 0] 2022年10月26日(水)15:00-18:30
    • [Day 1] 2022年10月27日(木)15:00-18:30
    • [Day 2] 2022年10月28日(金)15:00-18:30

Day 0

トークイベント「メタバース時代のインターネットガバナンス」

注目を浴びるメタバースを理解するための議論を行いました。メタバースに必要なVR機材などを基にした技術デモ、メタバース内における感覚の違い、それらからなるメタバース内に発生している新たな文化が紹介されました。その後の議論では、メタバースでは巨大なデジタルプラットフォーマーであってもユーザーの意見を取り入れる事例が紹介され、デジタルプラットフォーマーが抱える問題の解決方法の可能性ではないかといった意見が出されました。また、現在のメタバースはVR機材などが必要なため必ずしもダイバーシティではないといった意見や、より広がるためにはキラーアプリよりも全体的なレベルアップが必要ではないかといった意見もありました。

Day 1

開会、オープニングセッション

開会にあたり、国連IGF事務局長チェンゲタイ・マサンゴ氏のビデオメッセージ、総務省国際戦略局次長・小野寺氏、慶應義塾大学教授村井純氏のごあいさつをいただきました。続いて、村井教授より、今回のテーマである「今、改めて問われるインターネットの自由」について、インターネットのインパクトが強くなりすぎたことから、ある種の整理が求められる段階になったこと、特に今後サイバー空間をどのようにデザインするか、またリアルな空間とサイバー空間の間をどのように調整するかが問われているのだというコメントをいただきました。その後、「インターネット」に、インフラから上位サービスのどこまでを含めるべきなのか、「自由」の内容をどのように定義するべきなのか、といった点について会場・リモートの参加者の皆さんとの間で意見交換を行いました。

テーマセッション(1)「電気通信事業法の改正とインターネット・ガバナンス」

第208回通常国会にて成立した改正電気通信事業法。成立までに様々な紆余曲折があり、国会答弁では「忸怩たる」と言われるほどのものであった。このセッションではまず総務省の井上淳消費者行政二課長に改正のポイントを解説頂いた。その後検討会のメンバーであった森亮二弁護士とECネットワークの沢田理事に、この法律に関する思いをお話し頂き、また上沼紫野弁護士からは別の視点でご意見を頂いた。後半は一体どこまでパーソナルデータの規制をかけるべきかという点で議論頂いた。EUの規制が厳しすぎるのか、がそのポイントの一つ。また、会場やオンラインからこの改正そのものに関するガバナンスなどについても言及があった。

テーマセッション(2)「オンライン海賊版の現状と、対策の現在地点」

冒頭、「漫画村」騒動以降、マンガ海賊版対策で連携する出版・通信・ITの民間有志と総務省のこれまでの取り組みについて紹介し、検索エンジン、CDN、ドメイン名レジストラなどのサービスが海賊版サイトの運営を助長している現状や、対策上の課題などを、各登壇者から報告した。海賊版問題が国境、言語、文化圏を越えることにより、権利侵害の判断や捉え方のズレ、コミュニケーションの壁などに直面する中、インターネットに関わるあらゆる利害関係者が、エコシステム全体の問題として認識し、協力して解決に向かうために、より踏み込んだ議論が必要であることを確認したセッションとなった。

Day 2

テーマセッション(3)「スプリンターネット?」

  • Internetは技術的には「一体」だが、その上での活動では既にsplit/fragmentが観察される。
  • ウクライナ戦争以前の防御的(侵入阻止)なsplitがより攻撃的(相手をInternetから遮断する)なものに変化してきている。

という現状認識に対して、以下の議論がなされた。

  • ウクライナ政府のロシア封鎖要請という攻撃的なsplitに対するICANN・RIPEのゼロ回答は、「誰も排除しない」One World, One Internetを志向する技術コミュニティの意志である。
  • 企業・個人がsplitに対して取れるアクションとしては、自国政府・他国政府・レジストリー・マスタースイッチ事業者への働きかけが考えられる。
  • 注目する産業レイヤ、自由/安全、国家統治/グローバル管理、分散/集中によってsplit/fragmentの実相は異なるため、これらの選択について広範な議論が必要である。
  • コンテンツレイヤーでのsplitについては別に検討の価値がある。

テーマセッション(4)「日本のインターネット(通信網)は大丈夫か?」

どんどん複雑になっているネットワーク。要求される仕様もベストエフォートとはいえ実際は高品質なものでなければならない。通信事業者も努力はしているが意図しない形で通信が遅くなる、あるいは特定の利用方法で一時的に利用できないなどの現象が起きている。このセッションではBBIXの生野氏にISPのネットワークでどのようなことが起きているのかをPeeringやCDNとの関係について解説頂いた。またCSファームの松本氏にIPv4アドレスの枯渇後、レジデンシャルネットワークで起きているIPv6とのトランスレーション問題の原因などについて解説頂いた。これらは一般にはあまり公開されていない内容だが、少し技術的過ぎる内容であったため、参加された方にご理解いただけたかが問題と思われた。これは反省点として今後改善したい。

特別セッション

2023年に日本で開催されるインターネットガバナンスフォーラムがどういう場であり、そこで扱われるインターネットガバナンスとは、誰が、どのような立場で、どのような目的の下に、何を議論することであるのかを、昨年のIGF2022で公開された「2030年の悲観的なシナリオ」のビデオを題材にして紹介しました。その後の意見交換の中では、パネルからは、国別・地域別のローカルな行動が、グローバルな観点からの"bad practice"を増長することのないように努めることも、日本のインターネットコミュニティの責任だと考えるべきであるといった意見があったほか、また、2023年のIGFを日本で開催する上では、悲観的シナリオについて検討することだけでなく、日本のインターネットコミュニティからもっとポジティブな未来像を示すことも大切であるといった意見がありました。